UGGのブーツ

二人部屋へ通され、
共有のトイレまで遠いことがわかる。
腰を曲げて腹部を押さえがらでないと痛みで歩けない。
医師からは一泊、明日に退院できると言われているので、自分がオーバーなのかと思うが
何もせず寝ているだけでも、腹部が雑巾を絞る時のようにグッとひねられているような筋肉痛に似た痛みが常時ある。
何度かディーンフジオカにも廊下ですれ違うが、「大丈夫ですか?」という言葉もなく
なんだったら、目を合わさないようにしている様子がわかる。
ディーンは一人で歩いてることはなく、複数の医師や看護師で回診をしている最中のようで、
その中の誰一人としてそんな私に声をかけるわけでもなく、介助で向かってくる様子もない。
やはり、賄賂で騒がせた病院なので、性根まで腐っているのかもしれないと思ったが、
まぁ一泊のことなので、そんなイライラする必要もないと気持ちを前向きに持っていこうとした。
が、やはり、人として、看護師までもが、手を差し伸べないのは一体どういうことかと首をかしげ。とても不思議に思った。
救急車で運ばれてからは車いすで移動していたわけで、そこからまだ12時間しか経っていなかった。
膀胱炎なので、水分を多めにとって尿で流してくださいという指示をまもり、
飲めるだけ飲んで、トイレへ行くようにしていた。
毎回、腰を曲げて左腹部を押さえながら共有トイレまで歩いていた。
必要なものはオットに持ってきてもらったが、スリッパを言い忘れていたと
履いてきたUGGのブーツのかかとを踏んづけて歩いている足元をみて思った。
かれこれ10年前くらい、旅先のオーストラリアで、テレビ番組で紹介された店舗に行って買ったショートブーツだった。
リポーターは、当時まだキャピキャピしていたシェリーだった。
メルカリに出品中だが売れそうにないので、ちょうど寒くなってきたので履きだしていた。
夜中の3時、救急車を呼んでちょうど24時間経った時点で、発作が始まった。
雪山にいるくらい寒くて震えが止まらない。
それまでも夜になって寒いと看護師に行って、毎回扉を閉めるようにお願いするも、隣の老女の世話で来るたび開けたままにする。
電気毛布をもらってかなりの高温にしていたが、
寒い、寒くてしかたない。
だんだん震えが大きなってベッドがカチャカチャ大きく鳴り出す。
それまで執拗に話しかけられて、相槌も打つのが億劫になってきていた隣のベッドの老女ももう話しかけてこない。
これで彼女の話も聞かなくて済むと思いながら、自分の状態に限界を感じた。
耐え切れずナースコールを呼んだ。